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かれのすこしひらいた唇がかすかに微笑みかけていたので、ぼくはまた思った。( この眠っているちいさな王子にそれほど強く感動するのは、一輪の花にかれが誠実だからだ。かれが眠っているときでさえ、一輪のバラの姿がランプの炎のように、かれのなかで光を放っている. . . ) そしてぼくはかれがなおいっそう壊れやすいことを感じた。ランプたちをしっかり守らなくてはならないんだ。突風がそれらをふき消すかもしれないから. . .
 こうしてぼくは歩きつづけ、夜明けには井戸を見つけた。


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 「人間たちは」 ちいさな王子は言った。「特急列車に乗りこむけど、みんな自分がなにを探しているのか、もうわからないんだ。それでそわそわして、同じところをぐるぐる回っている. . . 」
 そしてつけ加えた。
 「そんなこと、しなくてもいいのに. . . 」
 ぼくたちが行き着いた井戸は、サハラ砂漠のほかの井戸と似ていなかった。サハラ砂漠の井戸は、砂を掘ったたんなる穴にすぎない。ぼくたちのその井戸は村の井戸に似ていた。でもそこには村がまったくなかった。ぼくは夢を見ていると思った。
 「へんだなあ」 ぼくはちいさな王子に言った。「すべてがそろってる。滑車も、桶も、綱も. . . 」

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