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 「きみの機械の故障がわかって、ぼくはうれしいよ。きみはお家に帰れるんだ. . . 」
 「どうして知ってるの?」
 ぼくは意外にも作業がうまくいったことを、かれにちょうど知らせに来たところなんだ!
 かれはぼくの質問にはぜんぜん答えないで、つけ加えた。
 「ぼくもね、きょう、お家に帰るんだ. . . 」
 それから、悲しそうに言った。
 「そこは、きみより、はるかに遠いんだ. . . はるかに難しいんだ. . . 」
 ぼくは何かとんでもないことが起きているのを感じた。幼子(おさなご)のように、かれを両腕で抱きしめた。そうしても、かれを引きとめるすべもないままに、かれが底知れぬ深みへと、まっすぐ沈んでいくように思えてならなかった. . .
 かれの真剣なまなざしは、はるか遠くに向かっていた。
 「ぼくにはきみのくれた羊がいる。羊の箱もある。口輪もあるよ. . . 」
 そう言って悲しそうにほほ笑んだ。
 ぼくは長いあいだ待った。かれの体にすこしずつぬくもりが戻るのを感じていた。
 「ぼうや、こわかったんだね. . . 」
 もちろん、かれはこわかった! しかしかれは静かに笑った。

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