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 ぼくはその塀から二十メートルのところに来た。それなのにまだ何も見えなかった。
 ちいさな王子は黙ったあと、また言った。 
 「きみの毒はよく効くの? ぼくを長く苦しませたりはしないよね?」
 ぼくははっとして立ちどまった。胸がしめつけられた。でもまだ何のことかわからなかった。
 「さあ、行きなよ」 かれは言った. . . 「ぼく、降りたいんだ!」
 そのとき塀の下のほうを見ると、ぼくは跳びあがった! そこにいた。ちいさな王子に向かって鎌首をもたげて。それは三十秒で人を殺す、あの黄色いヘビの一匹だった。ぼくは拳銃を出そうとして、ポケットをまさぐりながら駆けだしたが、その音でヘビは噴水が止まるように、静かに砂のなかに沈んでしまった。そして、たいして急ぎもしないで、軽い金属音をたてながら、石のあいだにうまく入りこんでいった。
 ぼくは塀にたどり着き、ぼくのかわいい王子を両腕で抱き支えるのにちょうど間に合った。王子は雪のように蒼白だった。
 「これはなんということなんだ! きみは今ではヘビと話すんだ!」
ぼくはかれがいつも首に巻いている金色のスカーフをほどいた。こめかみを湿らせ、水を飲ませた。それからもうなにもたずねる気になれなかった。かれは真剣にぼくを見つめると、かれの両腕をぼくの首に巻きつけてきた。ぼくはかれの胸の鼓動を感じた。それはカービン銃で撃たれて死んでいく鳥の鼓動のようだった。かれはぼくに言った。

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