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 「きみは今、仕事をしなければならないんだ。きみの機械のところに、また行かなくちゃ。ここで待ってるから、あしたの夕方、戻ってきて. . . 」
 でもぼくは安心していなかった。あのキツネのことを思い出していた。なついてしまったら、ちょっと泣くかもしれないな. . .

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 井戸の近くに、くずれかけた古い石塀があった。翌日の夕方、ぼくが作業から戻ると、かわいい王子がその塀の上にすわり、両足をおろしているのが遠くから見えた。しかもかれの話してる声も聞こえた。
 「きみはそれを覚えていないの? それはぜんぜんここじゃないよ!」
たぶん別の声がかれに答えた。というのはかれが言い返したから。
 「ちがう! ちがうよ! 日にちは確かに今日だけど、場所がここじゃないんだ. . . 」
 ぼくは塀のほうに歩き続けた。まだだれも見えないし、声も聞こえなかった。それでもちいさな王子はまた言い返した。
 「. . . もちろんさ。きみはぼくの足跡が、砂の上でどこから始まっているかわかるさ。きみはそこでぼくを待っていればいいんだ。ぼくは今夜そこに行くよ」

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