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 「ああ! きたんだ. . . 」
 かれはぼくの手をにぎった。しかしかれはまた苦しんだ。
 「きみはまちがえたよ。つらくなるよ。ぼくは死んだようになる。でもそれはほんとじゃないんだ. . . 」
 ぼくは、黙っていた。
 「わかるよね。遠すぎるんだ。ぼくは、この体をもっていけない。重すぎるんだ」
 ぼくは、黙っていた。
 「でもこれは、はがれた一枚の古い木の皮のようになるんだ。古い木の皮たち、というものは悲しくないよ. . . 」
 ぼくは、黙っていた。
 かれはちょっと気落ちした。けれどまた気をとりなおした。
 「すてきだろうね。ぼくも、星たちをながめるよ。すべての星たちが、さびたプーリーのついた井戸になるんだ。すべての星たちが、ぼくに水をついでくれるんだ. . . 」
 ぼくは、黙っていた。
 「それはとっても楽しいよ! きみは五億の鈴をもつ。ぼくは五億の泉をもつんだ. . . 」
 そしてかれも口をとざした。泣いていたから. . .

 「ここだよ。ぼくひとりで、一歩ふみださせて」
 それなのにかれはすわりこんだ。こわかったのだ。かれはまた言った。

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