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 ちいさな王子が逃避するために野生の鳥たちの渡りを利用したとぼくは思う。出発の朝、かれは自分の星をしっかりかたづけた。丁寧に活火山のすす払いをした。かれは活火山をふたつもっていた。それは朝食を温めるのにとても便利だった。死火山もひとつもっていた。しかしかれが言っていたように「先のことはだれもわからない!」 だから死火山も同じくすす払いをした。すす払いをきちんとすれば火山は穏やかに、規則正しく活動し、噴火しない。火山の噴火は煙突から火花が出るようなものだ。もちろん地球上ではぼくたちはあまりに小さすぎて火山のすす払いはできない。それで火山は多くの厄介事をひきおこすんだ。
 ちいさな王子は少し憂鬱そうに、バオバブの新しい芽も引きぬいた。かれはもう二度と戻るべきじゃないと思っていた。でもそれらのやりなれた仕事のすべてが、その朝かれにはきわめて甘美なものに思われた。そして最後にもう一度花に水をやり、ガラスのおおいで花をまもる準備をしていたとき、かれは泣き出したい気持ちになった。
 「さよなら」 かれは花に言った。
 しかし花は答えなかった。
 「さよなら」 かれはくり返した。
 花は咳をした。でもそれは風邪をひいているからではなかった。

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